残業代を巡って従業員と雇用主との間のトラブルが増えています。
労働基準法は,週40時間・1日8時間を超えて労働をさせてはならないと定め(労働基準法32条),これを超えて労働をさせる場合には,従業員と協定を結び(労働基準法36条),かつ,時間外労働について法所定の割増賃金を支払わなければならない(労働基準法37条)ことを定めています。
〇 雇用主の方へ
労働基準法は,従業員との契約内容にかかわらず,守らなければならない法律です。
従業員との間で,割増賃金は支払わないとの約束があったとしても,割増賃金を支払わ
なくてもよいことにはなりません。
例えば,割増賃金について,固定給で支払うと従業員と約束しているケースがありま
す。このような場合に関し,次のような判決が出ています。タクシー会社の乗務員に対す
る歩合給に関する判決です。
「労基法上の時間外および深夜労働が行われたときにも金額が増加せず,また,右の歩
合給のうちで通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当た
る部分とを判別することもできない場合には,当該歩合給の支給により時間外及び深夜
の割増賃金が支払われるとすることは困難であり,使用者は,乗務員の時間外及び深夜
労働につき・・割増賃金支払義務を負う」(東京地裁昭和62.1.30)
すなわち,固定給として支払われている割増賃金を労働基準法上の割増賃金として認
めるためには,割増賃金として支払われる部分が他の給与と明確に判別できる必要があ
るとの判断がなされたのです。
以上の例のように,制度をどのように設計するかによって,法的評価に大きな影響が
出る場合があります。
労働者とのトラブルを避けるためには,トラブルを未然に防ぐための制度設計が重要
なのです。
具体的な制度設計については,お気軽にご相談ください。
〇 従業員の方へ
残業代を含む未払い賃金がある場合,まず気をつけないといけないことは,時効の問題
です。
賃金を請求できる期間は,支払期日から2年間です。
したがって,未払い賃金の請求は,急ぐ必要があるのです。
次に,労働時間の証明の問題です。本来,労働時間は,雇用主が責任をもって管理しな
ければなりません。しかし,実情としては,雇用主による労働時間管理が不十分なケース
も多いことでしょう。そのような場合には,従業員の側で,普段から始業時間と終業時間
業務の内容などを記録して,労働時間の証明に備える必要があります。
未払い賃金の請求について,具体的にどのような方法をとるべきかについては,お気軽
にご相談ください。